人間の三大欲求というものを皆様はご存知でしょうか?
人間の三大欲求とは人間が生きていく上で切り離すことのできない三つの欲求を指す言葉です。その三大欲求こそが「食欲・睡眠欲・性欲」です。
これらの欲は人間が持つ動物的な側面であり、本能と言い表すこともできます。
これらの三つの欲求の中でも異質なものが「性欲」です。食欲と睡眠欲は満たさなければ直接的に死に繋がる生命維持の役割を持っていますが、性欲は満たされずとも死ぬことはありません。つまり、個人の生命維持と直接的な関連がないにも関わらず、それらと同等に数えられるほど人間にとって性欲は重要なものなのです。
今回は、そんな性欲と恋愛に関係する悪魔・怪物・妖怪などを紹介していきます。
恋愛、性欲に関係した「悪魔」と「淫魔」とは
恋愛や静性欲に関係した悪魔・怪物・妖怪は古今東西に存在します。それらの存在は一括りに「淫魔」と呼ばれることが多いのですが、それぞれが性質は様々です。その中でも「悪魔」という観点では大きく2種類の区分ができます。
一種類目が「恋愛、性欲を司る力を持つ悪魔」です。これらの悪魔は恋愛的欲求や性欲が目的というわけではなく、恋愛的欲求や性欲を用いて人間を惑わすという特徴を持っています。
二種類目が「恋愛、性欲を目的とした淫魔」です。これらは一種類目の悪魔とは異なり、自身が恋愛的欲求や性欲を持って行動をするという特徴を持っています。
これらの双方にあまり大きな違いがないように思われる方も多いかもしれませんが、悪魔と淫魔は決定的に違います。例えば、料理人には調理の能力があり、それをお客様に食べてもらう人間です。対して、食事をする人は自由に食事をするための能力(例:金銭)があり、食事をする人間です。
これと同様に、悪魔は「作り、提供し、対価を得る存在」、淫魔は「力を使い捕食する存在」と言えます。
では、ここからは恋愛、性欲に関係した力を持つ「悪魔」と「淫魔」をそれぞれ有名なものから4体づつ紹介していきます。
動画でも記事の内容を紹介していますので、興味のある方は是非、ご覧ください。
恋愛、性欲の力を持つ「悪魔」4選
その1 七つの大罪「色欲」の悪魔「アスモデウス」
最初に紹介するのが七つの大罪の中でも「色欲」を司る悪魔「アスモデウス」です。
アスモデウスは旧約聖書の外典であるトビト書やエノク書、また、ソロモン王の物語で有名な魔導書であるレメゲトンにも登場するとても有名な悪魔です。悪魔としての性質は人間を色欲によって堕落させるというもので、恋愛という面で見るなら「男性が浮気に走るように仕向ける」「夫婦間の性交渉を邪魔する」という被害を発生させます。
しかし、アスモデウスを召喚した際に得ることのできる力は「学問、芸術、技術に関する知識・能力」というものであり、色欲に関する力を得ることはできません。
その2 女性に美の知識を与えた悪魔「アザゼル」
次に紹介する悪魔は女性に美の知識を与えたとされる「アザゼル」です。
アザゼルは悪魔の中でも堕天使に分類されます。『第一エノク書』のよると、アザゼルが堕天した理由の一つが「女性に服装、装飾、化粧など自信を美しく着飾る方法を教えた」というものです。原初の世界において地上で生活する人間の監視役を務めていた天使たち「グリゴリ」の上位であったアザゼルは美しい人間の女性と恋に落ち堕天するのですが、その過程で人間に天界の秘密を教えてしまいました。
アザゼルに関する書物は種々ありますが、恋愛という観点で見るならば現代を生きる女性の美容はアザゼルによって齎されたものだと言えます。
その3 男女の愛情、性欲を掻き立てる悪魔「シトリー」
こちらもアスモデウス同様にレメゲトンに登場する悪魔であり、地獄の大公、ソロモン72柱の序列12「シトリー」です。
この悪魔は男女の愛情を燃え上がらせ、恋に走らせるというもので、召喚者が望むのならば相手が自ら裸になるように仕向けることができます。この力には諸説ありますが、シトリーを召喚した際に恋心を抱く異性の愛情や欲情を掻き立てられることは確実です。このようなシトリーの力は一般的に想像される悪魔による恋愛成就に最も近いものだと言えます。
しかし、シトリーを含め魔神とも呼べれる悪魔の召喚は非常に困難な魔術とされるため、安易に行うと危険です。
その4 男性限定、理想の女性の愛情を手に入れる悪魔「グレモリー」
グレモリーは地獄の公爵であり、ソロモン72柱の序列56の悪魔です。グレモリーもシトリー、アスモデウス同様にレメゲトンに主に登場します。
グレモリーはソロモン72柱の悪魔の中では珍しい女性の悪魔だとされています。多くの悪魔が男性や人でない姿で現れるのに対して、女性の姿で現れるグレモリーですが、恋愛的には男性限定で有効な能力を持っています。概要としては「老若男女問わず、召喚者の求める女性の愛情を得る」力であり、女性への強制的な魅了が可能です。
また、グレモリーは特定の女性だけではなく、召喚者が理想とする女性を引き寄せる能力があるともされています。
恋愛、性欲の欲する存在「淫魔」4選
狭い淫魔と広い淫魔の区別について
淫魔という言葉には「狭義での淫魔」と「広義での淫魔」という二つの側面があり、狭義では「キリスト教における悪魔の一種」となります。対して、「広義での淫魔」は世界中の神話や伝承に登場する人間の精気を吸い取る淫な人外(怪物)を表し、悪魔に限定されません。
特にキリスト教などにおける低級な悪魔 サキュバス、インキュバスが『=』で淫魔だと考えられがちですが、ここで紹介する淫魔は広義での淫魔です。サキュバスやインキュバスとは同じ分類ですが、別種のものだと考えてください。ちなみに、サキュバスは人間の男性に夜這いを行い精気を吸い取る悪魔、インキュバスは寝ている人間の女性に無理やり性交渉を行う悪魔です。
その1 原初の淫魔であり、淫魔の母「リリス」
淫魔の中でも最も有名な存在が「リリス」です。このリリスは人類で初めての男性であるアダムの最初の妻であるとされています。これについては様々な伝承がありますが、ここでは淫魔としてのリリスを紹介します。
淫魔リリスはアダムとの性交渉において、体位についてもめてしまい楽園から地上に降りて悪魔と交わったとされています。その際に生まれた無数の子供もまた淫魔であり、リリムやリリンと呼ばれています。リリスの性質は睡眠中の男性の夢の中に入り込み、誘惑することで精気を奪いとることです。この性質はリリムたちも同様です。
また、リリスは悪魔としても数えられ、生まれたばかりの赤子を殺す、男性を夢の中で苦しめ血液を奪うという能力も持っています。
その2 男性を拐って行く淫魔「ヴィルデフラウ」
ドイツの伝承に登場する「ヴィルデフラウ」は 淫魔の中でも男性にとっては害の少ない存在です。
ヴィルデフラウとは「野生の女人」という意味なのですが、その見た目は綺麗なブロンドの長髪を持つ美女だと言われています。彼女たちの種族(精霊)からは女性しか生まれないため、子孫を残すために外部から男性を連れ込まなければいいけません。
彼女たちに魅入られた男性は山の中にある精霊の国に連れ去られ二度と帰ってこれないのです。その対象となる男性は成人前の幼い子供まで及びますが、親が子供の手をしっかり掴んで離さないと諦めてしまい、泣きながら消え去っていくので比較的優しい淫魔だと言えます。
また、連れ去られた男性が既婚者であった場合も丁寧にお願いをすれば夫を返してくれるとも言われています。結婚氷河期の現代においては案外、ヴィルデフラウと暮らす方が幸せかもしれません。
その3 性交の対価を支払う吸血鬼「ズメウ」
ルーマニア発祥の淫魔「ズメウ」は少々異質な吸血鬼の淫魔です。
他の淫魔が一方的かつ、半強制的に性交渉を求めることに対して、ズメウは自ら対価を提示して男性と性交をしようとします。トランシルヴァニア地方の森林の中に住うズメウは美しく若い少女の姿をしており、背骨がないこと以外は普通の人間と身体的な違いがないです。彼女は定期的に森から姿を現し、羊飼いの男に対して「セックスをしてくれれば良い牧草地を教える」とねだります。淫魔であるため精気を吸い取られることはありますが、特に大きな害はなく貞操を守りたい男性のための対処法もしっかりと存在するため無害だと言っても過言ではありません。
しかし、異なる地方では女性を性的に誘惑する炎の怪物やドラゴンであるとされているという様々な顔を持つ淫魔です。
その4 女性を淫に変えてしまう妖怪「河童」
日本人なら誰もが知る「河童」も広義では淫魔に含まれます。
もしかしたら「エロ河童」という言葉を聞いたことがある人も多いかもしれませんが、河童にはスケベな性質があります。特に九州の伝承などで語られる、淫魔としての河童は女性に作用し、河童に取り憑かれた女性は性に乱れてしまう、夜になると河に向い河童と交わる、精気を吸い取られ心身ともに弱ってしまうなど被害は様々です。また、女性の河童に男性が取り憑かれた場合は、その男性と妻との間に生まれる子供が異形になり、生後間も無く死んでしまうと言われています。
日本人にとっては親しみがあり、キャラクターとしての「ゆるかわ」な河童も地方によっては淫魔とされるのです。
本当は怖い「淫魔」たち 無慈悲な怪物としての側面
近年では、アニメや漫画などのファンタジー作品の影響で淫魔は「エロいことをしてくれる可愛い小悪魔」程度に考えられていますが、本当はとても怖い存在なのです。
サキュバスのような低級の悪魔の場合は「長期間に渡って性交渉を行い、精気を吸い取られると死ぬ」と言われています。しかし、今回紹介しなかった世界中に存在する他の淫魔は「飽きたら食い殺す」「性交が終われば食い殺す」「一回でも交わると一生離れられない」という残酷かつ冷徹な怪物としての側面が強い場合が多いです。
今回は危険な死に関連する内容を避けるために紹介を控えましたが、淫魔はある種、高位の悪魔よりも危険だと言えます。
最後に 悪魔と淫魔から学ぶ恋愛について
今回は恋愛的欲求、性欲に関連する悪魔と淫魔を計8体紹介していきました。
恋愛などに関係した悪魔は、一神教系の中では今回の4体以外はほとんど存在しませんが、淫魔は広く見ればまだまだ数百種類以上も存在しています。
このことから恋愛的に学べることは、悪魔の力で強制的に恋愛、性欲を満たすよりも、個々人が自身の持つ魅力(個性)を最大限引き出しアプローチする方が良いかもしれないということです。数百種類以上いる淫魔は皆、特徴的で自分の力を生かせる状況を作り出し、相手を誘惑しています。
そう考えるならば、千差万別、自分だけの魅力を見つけ、恋愛対象に取り入る淫魔の『姿勢は』素晴らしいものなのかもしれません。
今後も皆様からのリクエストがあれば、世界中からジャンルごとに個性的な淫魔を紹介していきます。