自分のクローン人間が作れるとしたら
あなたは、自分の分身が欲しいと思ったことがあるだろうか。忙しい時やどうしても行きたくない予定がある時など、ふと、分身が欲しいと思うこともあるかもしれない。
とはいえ、分身を作るなどということはフィクションの世界の話であって、実際に作れるなどと考える人はあまりいないだろう。実際に作ろうと思っても作れるものではないし、仮にクローン技術で作れるからと言っても、そこには多額のお金や技術が必要なので簡単にできるものではない。ましてや人間のクローンなど、倫理的観点からも現代社会での作成は不可能だろう。
しかし、仏教大国で知られているチベットには、その秘法があるのだ。
科学技術ではなく自身の想像力を使うので、費用もあまりかけずに作ることができるし、人物設定も思いのままに作ることができるというものだ。何なら人物でもなく物でも良い。ただ、長い期間と細かな想像力を要する術である。
これは「トゥルパ」(タルパ)と呼ばれる、化身(トゥルク)を作る秘術である。今回はその「トゥルパ」について解説していきたい。
チベットの秘奥義トゥルパとは
トゥルパは、チベット密教の中で伝承されてきた魔術のようなものであり、厳しい修行を経た者のみが習得できるとされる秘奥義である。
化身となる「トゥルク」をイメージにより形作っていき、そこに魂を宿らせていくことで、自分の思い描く人物を作り出していくものとなる。
「トゥルパ」の言葉はチベット語で「変化身や化身」を表す言葉であり、仏教で言えば「化身・化現・化作(※)」を意味している。また、英語では「タルパ」とも言われ、霊的・精神的な力によって作られた思念形態を表す言葉として神智学に取り入れられた。日本でも「人工精霊」「人工未知霊」などと呼ばれ、2ch(2ちゃんねる)でも話題にされてきたようだ。
トゥルパはチベット密教の中で伝承されてきたものではあるが、世に広まってからは「想像上の仲間や空想の友達(=イマジナリーフレンド)」として、架空の友人や恋人などを作り上げる人も現れるなど人気を博した。
(※)「化作(けさ)」は仏教用語で、菩薩などが人を救うために、姿を変えて現れたり、様々な物事を現象させたり変化させたりすることである。
トゥルパのやり方
ここでトゥルパの方法を具体的に紹介していこう。
〈1、作りたいトゥルクをイメージする。〉
トゥルクの外見は、頭のてっぺんからつま先にかけて全体的にしっかりと作っていく。難しければ、人形や写真・絵などを使うと想像しやすいかもしれない。自分自身のトゥルクを作りたい場合は、鏡や写真で確認するのもよいだろう。肌や髪の質感、装飾や衣類の素材など、手触りや温度まで感じられるまで具体的にイメージすること。
外見が完成したら、性格や話し方、名前、趣味など、その人物の特徴となる部分を具体的に、まるでその人物が実際に存在しているかのように細かくイメージしていくこと。仕草や考え方の癖、匂い、足音や呼吸音など、見た目だけではなく、五感を使って感じられる人物像を練り上げていこう。
イメージしたものを紙などに書き起こしていけば、よりイメージが定着してくるだろう。
これを数日~数年もの長い時をかけて行っていく。
〈2、実際に話しかけて会話をしてみる〉
トゥルクの外見がしっかりと固まり、まるで家族を目に浮かべるように感じ取れる様になったら、今度はトゥルクに話かけてみよう。何度も話しかけ、トゥルクが返事をしてくれるところをイメージしていく。
最初はこちらから語りかけるのみになるが、何度も話しかけ、その度のトゥルクの様子を想像し続けていく。するとその内、トゥルクから返事が返ってくるようになるだろう。さらに会話を重ねていくと、トゥルク自身から語りかけてくるようになってくれる。
会話を重ね、より深くトゥルクの人物像を具体的に理解しよう。
〈3、トゥルクを動かしていく〉
トゥルクと会話ができるようになったら、次はトゥルクが動く様子をイメージしていく。
会話の中で指示を与え、それに対してトゥルクがどういう行動を取るのかよく想像していこう。トゥルクが自発的に行動することもあるだろう。ここまで来れば、ほぼトゥルパが成功したようなものになるが、ここからさらに会話などを続けていくことで、よりトゥルクが生きた人物になっていくだろう。
これが、自らの意識を持って動く、オート化ができれば大成功だ。
トゥルパの注意点
トゥルクは上手いこと作れると、話をきいてくれたりアドバイスをしてくれる心強い存在となる。そのため、友人や恋人として作ったならば、孤独感を埋めてくれたりもする。
実際に、ヤコブ・J・イスラーの研究では、被験者の半数が何らかの精神障害や神経発達障害を抱えていたようだが、精神障害と診断されたことのあるタルパマンサーのほとんどが、トゥルクを作ることで症状が改善したと報告しているようである。
トゥルパの効果はそれだけに留まらず、悪夢から救ってくれたり予知能力を授かるなど、守護霊としての役割も果たしてくれることもあるようだ。
しかし、時にトゥルクを作る危険性やリスクというものもある。
トゥルクは宿主の精神状態に左右されるものなので、宿主がネガティブになるとトゥルクも引きずられて悪い性格となってしまう。本来であれば、良き相談相手などになるはずが、悪い存在として宿主にとって嫌な幻覚などを見せてくる困った存在となるのである。
また、トゥルク自身が生命的エネルギーや意思を持ち過ぎると、勝手に動き回ってしまうこともあるようだ。身体を乗っ取られたり、トゥルクの意思で身体を操られたりもするらしい。他にも、理想的なトゥルクを作り上げたが故に依存関係になってしまったり、暴走化したトゥルクにより統合失調症や多重人格などの精神疾患にかかってしまう恐れもある。
そういった場合はトゥルクを消してしまえば良いのだが、厄介なことに一旦作り出したトゥルクはなかなか消すことができない。トゥルクはトゥルク自身の人格を持ってしまっているので、消されることに必死に抵抗するからのようだ。
トゥルクの暴徒化は、トゥルクの人物設定や自身との関係性などが曖昧だと起こりやすいようなので、作り出す段階で明確に設定していった方が良いだろう。
また、作り出したトゥルクとは一生を共にする覚悟を持って、注意して行ってほしい。
世界中に存在するかもしれないトゥルパ
トゥルパは、架空の人物を作り出し具体化することで、自分にとって本物の人生のパートナーにしたり、自分を守ってくれる存在としていくものである。
公には伝えられていないだけで時代や国籍問わず、架空の人物を作り出し癒しや守護、啓示を求める手法や手段を持っている国は少なくないだろう。そもそも、太古の昔から人間はその想像力や発想力によって、物語を作ったり様々な技術を発展させたりしてきた。チベットからトゥルパが広まったとはいえ、既にある技術に応用し取り入れたものもあるだろう。
また、トゥルパが世界中に広まった後、修行僧でない一般の人々の間でトゥルパを元にしたタルパを行う「タルパマンサー」と自称する人たちも出てきている。
しかし、今回のトゥルパのように、その技術が宗教の秘術として成立してきた背景には、密教の特徴や土着の宗教との関係があってこそなのだろう。
チベットに伝わる土着の宗教と仏教
そしてトゥルパ
今回、チベット発祥の秘術の一つであるタルパ(トゥルパ)を紹介した。
トゥルパは密教から世の中に広まって以来、世界中の人に利用され研究されてきた。例に違わず、日本でも本が出版されていたり2ちゃんねる(5ちゃんねる)でも話題になるなど、それなりに認知されているようである。
そんなトゥルパが生まれたチベットは仏教大国であり、仏教と聞くと、あまり秘術などのイメージは湧かない人も多いかもしれない。しかし、チベットで広まった仏教は、インドでできた「後期密教」であり、密教などは口伝のみで教えが引き継がれている秘密の部分があり、マンダラや護摩焚きなどの儀式を行うことが特徴である。また、性的要素も取り入れられるなどして、神秘的な面も持ち合わせている。
さらに、チベットには仏教が伝わるより以前から、土着の宗教というものがあった。それはボン教と呼ばれ、自然信仰とシャーマニズムが特徴である。トゥルパはそんな文化背景があって生まれたのだろう。
また、仏教がチベットに伝えられ広まっていく中で、ボン教の神様や儀式なども取り入れられてきたので、現在でもチベット仏教にはボン教の由来のものなど、その片鱗を見ることができる。ボン教についても、今後どこかで紹介できたらと思う。