魔術は善良なことにも邪悪なことにも使えるものです。
人の病気を治す、悪霊を追い払うことは善良な使い方で、人を病気にしたり、悪霊を呼び出したりすることは邪悪な使い方と言えるでしょう。
そうして、善良な魔術を白魔術、邪悪な魔術を黒魔術と分類しました。
今回は黒魔術によって作られた媚薬についての解説をしていきましょう。
植物を使用した媚薬「コリアンダー」の調合方法
ヨーロッパでは古くから異性の愛を勝ち取る方法として、草木などの植物性の媚薬を使う方法が最も多く使われていました。
メジャーなものであればゲッケイジュ、シクラメン、ユーカリ、ジャスミン、シダなど多種多様な植物がその材料となったのです。
使用方法はいたって簡単で、粉末状にして飲食物にして異性に飲食させる方法、相手の異性の部屋に隠したり、相手の家の柱に塗り込むなどの方法がありました。
特別にその中の1つコリアンダーという媚薬をご紹介しましょう。
コリアンダーは、別名でパクチーと呼ばれる香草です。
調合前にランプに火をともし、火鉢でお香を焚く必要があります。「愛の悪魔ハボンディアよ、あなたの名において、この魔術を行う」という呪文を唱えるのです。
それから相手の異性の事を思い浮かべて「自分に愛を抱いてくれるように」と祈願をします。
蒸留した水を聖杯に入れ、乳鉢でコリアンダーの種を7つ磨り潰します。
「種を温め、心を温めよ。決して離れないように」という呪文を唱え、相手の名前を3度繰り返しましょう。
念を込めつつ、粉末が水に溶けけるのを見つめる右手の人差し指で空中で十字を3度切ります。
そのあとはきっかり12時間それを放置して完成です。
こうして調合したコリアンダーは相手の口に入れることで効果を発揮します。
植物だけではない、動物を使った媚薬「大アルベールの秘法」
ヨーロッパでは動物性の媚薬もたくさんありました。
「異性に愛されたい」という願いは万人が持っているもの。だからこそ叶えるための魔術も数多く存在しています。
「大アルベールの秘法」という18世紀のフランスの魔術書には、ハトの心臓、燕の子宮、ウサギの腎臓を乾燥させ、自分の血を加えてもう一度乾燥させたものを好きな異性に飲ませれば、その相手の愛が手に入ると記されています。
動物の一部を使った黒魔術の媚薬はこれだけではありません。他にも、
「オオカミの革でヒバリの右目を包んだ物を好きな異性に食べさせると、その相手から愛されるようになる」
「粉末にしたツルニチソウと一緒にミミズを食べモノの中に入れると、それを食べた男女は惹かれ合うようになる」というものもあります。
男性の愛が欲しい女性向けの黒魔術はまだまだあります。
「熱い風呂に入り、十分汗が出たら小麦粉で全身を覆い、水分を吸った小麦粉を手足の爪、頭髪や陰毛の燃えカスと混ぜてパンを作り、それを男性に食べさせる」
「膣の中で小魚を窒息させ、それを粉末にして男性に食べさせる」
「雌鶏を生きたまま心臓を取り出し、それを膣内に入れたものを男性に食べさせる」なんていう方法があったのです。ゾッとしますね。
伝説の媚薬「マンドラゴラ(マンドレーク)」
マンドラゴラは媚薬に使われる材料の中でももっとも有名でしょう。「愛のリンゴ」という名で聞いたことがあるかもしれません。
マンドラゴラは地中海地方でとれる有毒の薬草で、幻覚作用のある成分を含んでいます。
見た目は特徴的です。根っこは二股に分かれており、人型のような不気な姿をしているので見ればすぐにわかります。
その姿からマンドラゴラは魔力のある不気味な植物だと古くから恐れられていました。
死刑台の下に芽を出して絞首刑になった人間の水分を摂取して成長しているものだとも信じられていたのです。
マンドラゴラは引き抜くと大きな悲鳴を上げ、それを聞くと死んでしまうという伝説も残されています。
マンドラゴラはワインを使って洗い、小箱に保存しておけば未来を教えてくれたり、不妊症の女性に新しい命を授けるともいわれているそうです。
魔術を使うにあたって
科学とは違って魔術は人間の主観的な部分が大きく影響するものです。
よって邪悪な魔術、黒魔術を使うときは、その儀式や作法も邪悪な禍々しいものになりがちになります。
だから白魔術と黒魔術は全く違う魔術のように見えるのでしょう。
今回は邪悪な目的でつかわれる魔術によって作られる媚薬について紹介してきました。
媚薬なので、好きな人を振り向かせる目的のもので、その感情そのものは邪悪なものではありません。
しかしながら、その方法はやはり黒魔術ならではの禍々しさのようなものがあります。
悪魔の力を借りる、自分の身体の一部や動物の内臓を使い、更にはそれを相手に食べさせるなどです。
どれも過去に実在した魔術ですが、普通では考えられないようなやり方のものばかりですよね。
私たちとしては安易な考えで真似をする、ということはあまりお勧めはできません。
また、植物だと毒性のあるものもあるので、口に入れるようなものは注意すべきですね。