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呪いの儀式【西洋と東洋の邪術】

「邪術」とは?

邪術とは、文化人類学の用語で、「超自然的な現象で他者に危害を加えることを目的とした儀式や所作、技術」のことだ。日本の民俗学者である小松和彦は著書で邪術を「物質的、具体的な方法で神秘的力を発動させ、相手に災厄を与えるもの」と定義している。つまりは、特定の相手に対する「呪い」のことである。

他者に危害を加える呪いは、様々な国や宗教において邪術とされ禁忌とされている。

では、なぜ邪術は禁忌とされながらも現代まで受け継がれているのだろうか。邪術の特徴や国による違いを比較・確認しながら考えてみたい。

「黒魔術」とは?

西洋の邪術の有名どころと言えば、黒魔術だ。

これは、悪魔を召喚して契約を行い、その悪魔の力によって対象に危害を与える「呪い」である。

相手にかける「呪い」の強さや方向性によって、必要な物、かける時間、契約する悪魔、などの細々とした要素が変わってくるため、明確に「これ!」といった方法は無いのだが、基本的には魔法陣の中で獣の血や肉などを餌に悪魔を呼び出し、契約を交わすことで「呪い」が成立する、といった工程を経て行う。

契約の際には大抵の場合は契約者の「魂」を求められ、死後に地獄に落ちる、というパターンが多いのだが、契約の際の交渉次第では、支払う対価は増減する。西洋の民話、寓話の中には、悪魔と交渉し、もしくは上手く悪魔を騙して、利益だけを得て対価を支払わない、という話や、逆に悪魔に騙されて何の利益も得られぬまま地獄に連れていかれた、という話も多々存在している。

「黒魔術」の詳細な方法は中世ヨーロッパで大量に流布した「魔導書(グリモワール)」の中に詳細に載ってはいるが、大筋はともかく細部が異なっているため、方法が確立されているとは言い難く、素人が手を出すにはかなりリスキーと言えるだろう。

「丑の刻参り」とは?

日本で最もメジャーな「邪術」の一つに、丑の刻参りが挙げられる。

これは「丑の刻」と呼ばれる時間(午前2時~4時)に白装束を着て、顔に白粉を塗り、頭には逆さにして三本の蝋燭を立てた五徳(金輪)をかぶり、高下駄(もしくは一本歯の下駄)を履いて、胸に鏡を吊るし、乱れた髪で七日七晩の間、憎い相手に見立てた藁人形に五寸釘を打ち続ける、という江戸時代に確立された呪術である。

発祥の時点では「神に祈る」という部分が色濃かったが、江戸時代に方法が確立されたころには、「自身の念の強さ」によって呪いの効果の強弱が決まるという考え方が主流になった。

この呪いを行う際に注意すべき点として、呪いをかけている姿を人に見られてはいけない。もし見られた場合は、見た人間が生きていればその呪いが全て自身に跳ね返ってきてしまうため、見た人間を殺さなければならなくなる。

「丑の刻」とは

この世が死後の国である「常世」につながる時間。
その為、平安時代には呪術が行われる時間だった。また似たような言葉に「逢魔時」というのもあり、これは夕暮れが近づいた黄昏時のことを指す。「逢魔時」は文字通り、魔に逢いやすくなる危険な時間だ。昔の人々には、空間、時間的な境界では良くないことが起こる、という考えがあった。

「丑の刻参り」は、古くは「うしのときまいり」と読まれていた。これは、心願成就のために「丑の刻」に神仏に参拝することである。また、京都市の貴船神社には、貴船明神が降臨した「丑の年の丑の月の丑の日の丑の刻」に参詣すると、心願成就するという伝承もある。このことから、「憎い相手を呪い殺す」という心願を成就させるために、貴船神社で「丑の刻参り」が行われるようになった。

「丑の刻参り」での服装は、「宇治の橋姫」伝説に根付いていると言われていて、更にこの伝説にも貴船神社が関係している。橋姫は妬ましい相手を殺すために鬼神になることを願い、その為の方法の託宣を得たのが貴船神社だ。「平家物語、剣の巻」では、橋姫が鬼神となる為に行った儀式は以下のように書かれている。

「長なる髪をば五つに分け、五つの角にぞ造りける。顔には朱を指し、身には丹を塗り、鉄輪を戴きて、三の足には松を燃し、続松を拵へて、両方に火をつけて、口にくはへつつ、夜更け人定まりて後、大和大路へ走り出て……」

つまり、この段階で既に「五徳」を逆さにかぶり、その足に蝋燭を立てて火を灯す、髪を振り乱す、といった要素が見られる。更に、鬼女と化した橋姫を祓った陰陽師は人型の紙を用いていたことから、この二つの要素が融合して「丑の刻参り」の手法が確立されたと推測される。

以上のことから、「黒魔術」と「丑の刻参り」の差違を比較してみる。

丑の刻参りと黒魔術の比較

手法

  • 黒魔術
    悪魔を召喚して契約することにより、その力を借りて対象を呪う。また、手法は様々で、大筋は一貫しているものの呪いをかける機関や呪文などの細部が異なり、明確に確立しているとは言い難い。
  • 丑の刻参り
    所定の格好をして、七日七晩という決まった期間藁人形を木に打ち付け続けることで成立する呪いで、神仏や悪魔の力ではなく自身の念の力を主力としている。

コスト

  • 黒魔術
    基本的に「獣の血」「獣の肉」などが必要になってくる。その他の物に関しては、用いる手法によって異なる。「魔導書」があれば完璧だが、値段云々以前に手に入れること自体が難しいだろう。
  • 丑の刻参り
    「白装束」「五寸釘」「藁人形」「五徳」「蝋燭」「白粉」が必要。また、藁人形の中に呪う相手の一部(髪や爪)などを埋め込めば効果が高まる、とする説もある。準備する物は多いですが、一つ一つは手に入れられない物ではない。

リスク

  • 黒魔術
    成功した後、「対価」として命や魂を悪魔に支払う必要があり、召喚する悪魔の性格や特性によっては利益さえも得られず対価だけ持っていかれる可能性もあり、非常にリスキーといえる。
  • 丑の刻参り
    自身の念を力としているため、神や悪魔に「対価」を支払う必要はない。ただし、人に見られた場合は、見た人間を殺さなければ呪いが自身に返ってくるため、ノーリスクとは言えないだろう。

効果

  • 黒魔術
    召喚する悪魔の特性や強さによって変わってくる。相手を呪い殺すことが出来るものから、毎晩悪夢を見せるだけのものまでいるので、確実に相手を殺せるわけではない。また、召喚する人の才能や技術によって呼び出せる悪魔の強弱も決まってくる為、素人には相手を呪い殺すところまで行くのは難しいだろう。
  • 丑の刻参り
    相手を呪う念の強さで効果が変わってくる。念が弱ければ、相手は少し体調を崩す程度だが、念が強ければ死に至らせることも可能である。技術や才能よりも、執念の強さがものをいう手法だ。いずれにしても、作法や形式を守って行うのは難しく、素人が気軽に手を出してしまうのは危険といえる。

不能犯としての呪術師たち

黒魔術や丑の刻参りといった邪術を行い人を裁く術師たち。彼らは不能犯として法に裁かれることなく、時に人の命を奪うほどの超自然的現象を起こすために準備を重ね、心血を注ぐ。しかし、その対価やリスクは自身の命だ。呪いをかけたものはカウンターマジック、つまり、呪い返しをされるリスクも有る。呪い返しは通常、自分がかけた呪いよりも大きな力で跳ね返ってくるという。

それでも邪術はこの世から絶滅するどころか、インターネットや書籍で拡散されている時代となった。単純に、人々に求められているというのもあるだろうが、それ以外にも力が働いていそうだ。

そもそも、その邪術・禁忌術を拡散しているのは誰なのだろうか。なんの目的があって拡散しているのだろうか。

恐ろしさや難しさを詳しく伝えることで抑止力にしているというのも考えられるだろう。あるいは、持論を交えるための共通認識として解説しているのかもしれない。しかし、それを見た者の一定数はこの邪術・禁忌術を実行しているのだ。そして、命を奪われた被害者、対価に呑まれた者が生み出され続けている。これを想定せずして拡散する術者はいないだろう。

つまり、この邪術が行使される世界を望んでいる者もいるということだ。邪術によって起こった影響や被害を食い物にしている者、カウンターを狙って罠を仕掛け誘導している者、あるいは超自然的現象が望んでいるのかもしれない。邪術や禁忌術に手を出すということは、超自然的現象を利用し己に利益を得ること。その計り知れない大きな流れに足を踏み入れるということだ。

この世の裏役者として潜んでいる術師たち。邪術を禁忌とする者、拡散する者、行使する者についてよく考えてみると見えてくるものがあるかもしれない。

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