心霊体験コラム

心霊体験談【後ろ女】 G県 Eさん

これは私がまだ中学生の時の話しです。

それは、中学1年生の夏の出来事でしたでした。
私の祖母の一番上の兄である「泰造さん」と言う方が亡くなりました。
とは言っても、私はこの「泰造さん」とはほとんど面識がなく「泰造さんが亡くなった」と両親に言われたのですが、正直なところ「泰造さんって誰だっけ?」と思っているほどでした。
ですが、親戚の不幸と言う事もあり「知らない」と言う訳にもいかず、ちょうど夏休みということもあり、両親と共にお葬式に出かけることになり、私はその時初めて泰三さんの屋敷を訪れたのでした。

そこはG県の山奥で、大自然に囲まれた言えば聞こえは良いのですが、中学生の私から言わせれば商業施設の様な物どころかコンビニ一つも無く、ジュース一つ買う為に自動販売機を探したけど、自動販売機も「歩けば30分ぐらい掛かるよ」と言われる様な、まさしく絵にかいた様な「田舎」と言った場所でした。
そんな山奥に建っている泰造さんの家は「お屋敷」と呼ぶにふさわしい様な、古いながらもとても大きな家構えでした。
泰造さんのお屋敷の敷地内には、ニワトリ小屋がたくさんあり、その中では多くのニワトリが飼育されていました。
「スッゴイ数のニワトリだな~」なんて思いながらニワトリ小屋を見ていると、泰造さんの娘にあたるおばさんが売りには出せない小さな卵を、私や親戚の子供達にくれたので、大人達が集まるまでの時間、私は子供たちと一緒にその卵を使っておままごとなどをして過ごしていました。

そのうち親戚が集まりお坊さんも到着したのでお葬式が始まり、正座に慣れていない私はお坊さんのお経を聞いている間に足がしびれてきてしまい、更には中学生にはただつまらないお経を聞いているだけの時間によって襲ってくる眠気と戦いながら、あまり面識のない泰三さんの遺影をぼ~っと見つめていました。
そして、特に問題が起きる事もなくお葬式も滞りなく終わり、両親や親戚のおじさんとおばさん達はビールを片手に寿司を囲みながら、「泰造は若いころあ~で、こ~で」「あいつはなかなか子離れができなくて、嫁にはやらんなんて言ってたな」なんて泰三さんの思い出話をし始め、ひとしきり泰造さんの話が終わると次は子供たちの話や世間話などで盛り上がっていました。

そんな中、慌ただしく動いている両親とおばさんたちを見て「大変そうだなあ~」なんて思っていると「忙しいんだからあんたも手伝いなさい」と母に言われ、子供たちの中では大きかった私は両親たちを手伝わされる事になり、私もおじさん達にビールを注いだり、愛想を振りまいていた。
そんなこんなでバタバタしていると、やがて田舎の涼しく心地よい風を感じる夕暮れ時となっていました。
「田舎の風は涼しくて草木のの良い匂いがするなぁ」なんて思っていると、ふと尿意を感じ、私は一人席を立ち「すいません」と言ってトイレへと向かいました。

泰造さんの家はかなりのお屋敷だったからなのか、田舎ということもあってなのか、トイレは少し変わった作りをしていました。
扉を開くと電球が裸のままぶら下がっていて、入り口直ぐの所には先ず男用の小便器があり、小便器の奥にはまた扉があり、それを開くといわゆる「ボットン便所」と言われる和式便器がある形になっています。
ですが、電気が初めの個室の裸電球しかなく、奥の和式便器の個室には照明がない状態となっています。
仕方が無いので、私は二つ目の扉を開けたまま薄暗いボットン便所で用を足すこととなりました。

田舎の夏の夕暮れの独特な雰囲気と慣れない木造のボットン便所で、少し気味が悪かったのですが、ここ以外にトイレがある訳でもなかったので、鼻歌なんかを歌いながら気を紛らわしながら用を達していました。
それから用を達して服を整えてボットン便所を後に振り返りました。
すると、それはそこにいました...

一つ目の個室の裸電球の下に「白い服を着て真っ黒な長い髪を無造作に束ねた女」がドアの方を向いてそこに立っていたんです...
もちろん出入口は1つしかなく、この女を越えなければ外へ出る事は出来ません。
それよりも何よりも、私は奥の個室に電気が無かった為、ドアを開けた状態で用を足していたので、誰かが入ってくれば気付くはずですし、そもそも2つ目のドアを開けっぱなしの状態で用を達していたので、最初のドアには鍵を掛けていました。
トイレ内には隠れる様な場所は無く、誰かが先に入っていた場合気付かない程のスペースはありません。
何故なら、普通の家に比べれば広いトイレとは言え、人がすれ違えるほど広いトイレでは無かったので、誰かが先に入っていれば確実に気付くはずなのです。
と言う事は、この女は「私が用を達している間に入ってきた」か「突然そこに現れた」と言う以外ありえないのです。
でも入口に鍵が掛かっている以上、この女は突然そこに現れたと考えるしかないでしょう...

そう思うとその女の後ろ姿は恐怖の対象でしか無く、そこにその女が立っている事で外に出れない以上、個室でこの女に追い詰められていると言う状況に体が硬直し、体中から冷や汗が噴き出しているのを感じました...
それからどれくらいの時間でしょうか...長いような短いような時間の中で、私はその女の頭から目を離せずにいました...

すると、私の耳にかすれた音のような声のようなものが聞こえてきました。
それと同時に、私は少しずつ女の頭から視線を下に落としていきました。
女の足元まで視線を落としていくと、私の目に飛び込んできたものは異様に爪の長い女の手の甲、さらに足の指はこっちを向いてる。
そう...私が後ろ姿だと思っていたその女は、紛れもなく正面を向いていて私の方をじっと見ていたのです...

長い黒髪を全て前に降ろして顎の辺りで一つに束ねていたのです。
髪を束ねているものだから、私はてっきりそっちが背中と思い込み、私が見ているのは後ろ姿だと勘違いしていたのです。
つまり、私が後頭部と思って見つめていたのはその女の顔で、女の顔は全く見えていませんでしたが、私はその女とずっと目を合わせていた状態だったのです。
長い黒髪を前に降ろし束ねているから、顔は見えていない...見えていないそのはずなんですが、それが後頭部では無く顔だと認識すると、見えないけれど見えるんです...
そうなってくると、私は先ほどまで以上の恐怖を感じ、どうしようも無く怖くなった私は、ガタガタ震えながら泣いていました。

そして、女はゆっくりと両手を上げ長い黒髪を束ねている紐に手をかけようとしました。
次の瞬間「ガタッ」と扉の開く音と同時に父の姿が見えました。
その女は扉の方へと振り返り父の方を見ましたが、私は父の姿が見えた事で「安心感」と「恐怖の限界」「緊張の緩和」などもあってと思いますが、そこで私は気を失いました。

目を覚ますと私は布団に寝かされていました。
ふと周りを見回すと、両親が心配そうに私の顔を覗き込んでいました。
私は「変な女がいたのよ!!怖かった...」と叫び、また泣きそうになる私を見て二人は「うん、うん」と頷いていました。
あの時、ドアが開いて父が入ってきた時に、あの女は確かにそこに居て父の方を振り返ったはずだったのですが、父はあの女の姿を見てはいないようでした...

少し落ち着きを取り戻した私に、叔母さんが一冊の古びた冊子を持ってきました。
それは亡くなった泰造さんの日記のようなものでした。
日記をめくって行くと、ある黄ばんだ1ページがあらわれました。
黄ばんだページには絵が書かれており、そこに描かれていた絵は、私がトイレで見た女そのものでした...

「うちのお父さんな、こんな恐ろしいもん見とったみたいなんよ...この日記はお父さんが死んでしもうてから見つけたんやけど、なんやいつもえらい怖がっとったんやわ...それなのに全然気づいてあげれんかった...」そう言っておばさんは涙ぐんでいました。
私はおばさんにその日記を見せてもらうと、泰造さんはあの女の事を「後ろ女」と呼んでいたようでした。
日記には、ニワトリの飼育についてや森での狩りの事などについてが多く書かれていましたが、その合間、合間には「後ろ女」について記してありました。
今となってはあまり覚えていませんが、最後のページにはこう書いてあったと思います...
「彼女の真の面、真の背を目にした時、我死すか...」

泰造さんの死は後ろ女の顔を見てしまったからなのか、それは誰にもわかりませんでしたが、私は後ろ女が振り返ったあの時、後ろ女の後頭部を見たような気もするし、見なかったような気もします。
今のところ私に大きな変化はありませんでしたが、あの日以来おばさんたちが今も暮らしている、あの「泰造さんのお屋敷」には一度も近づいていません。
次にあそこを訪れる事があるとすれば、おばさんが亡くなった時になるでしょうが、それはそれほど遠くない内の出来事の様な気がして、私は毎日あの日の不安を感じずにはいられません...

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