目を奪われるという言葉があります。
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花、というように古来より男たちは美しい女性を華に例えてきました。
女性に惹きつけられたところで相手は手の届くことなき高嶺の華。
しかしとある男にはその華を手にかけ、強奪する手段を持ち合わせていたのです。
今回は手の届かない相手に一目ぼれをした力在る者が手を出した、禁忌の呪術についてご紹介していきます。
睡眠を利用した禁忌の呪術―――玉女喜神術
私たち人間の人生のうち30%程度が睡眠時間だといわれています。
その睡眠を逆手に取った禁忌の呪術が中国にはありました。
中国には三大宗教の一つとして道教というものがあります。道教に準じ、その教えに従う者を道士と呼びました。
道士たちは修行を積み重ね、道術という呪術を修めておりました。
その道術は数多くの民衆の病を癒し、その恩恵を得た者のなかには皇帝の名も記されています。それほどまでに絶大な信頼を寄せられていたものこそが道術であったのです。
物事には二つの側面を持つ。陰陽という思想は中国由来のものです。
修行を修めたとはいえ道士も所詮は俗人。自身の内にて渦巻く葛藤は持ち合わせています。
多くの民衆を救った癒しの呪術もあれば、逆もまた然り。
人々を惑わし、己の中に抱く欲を叶える呪術も存在したのです。
そして数ある陰の呪術一つこそが禁忌の呪術「玉女喜神術」でした。
文献に残された記録とは
時代は遡ること800年前、南宋時代。
道教の総本山の一つ、茅山での記録が現代にまで受け継がれてきました。
とある道士にはどうしようもなく気に入った若い娘がいました。
その娘を家から外へ出さない、男を家へと招き入れない。それほどまでに娘は両親からとても大切にされていました。
しかしあるとき、若い娘は婚約前に子を授かったのだというのです。
両親は娘を問い詰めます。すると娘は次のように打ち明けました。
毎晩娘が眠りにつくと必ず、夢か幻かわからない状態になりました。
すると男が現れ、娘をとある部屋へ連れ込むのです。
その部屋で彼女は料理を振る舞われます。そして必ず男と夜を共にするのです。
その末に娘は子を身籠ることとなったのだといいます。
意中の相手を夢の中で口説き落とし、誰にも知られることなく一夜を共にする。
これこそが道術の奥義にして禁忌の呪術、玉女喜神術であるのです。
記録に残された道士のその後
研鑽を積んだ男は呪術を用いて、己の欲を叶えました。
しかして事が明るみに出たことを発端として、ほどなくしてその道士は捕縛されました。
牢獄へ入れられた道士はほどなくして数節の呪術を唱えます。
するとたちまち道士の体は黒い煙に包まれ、それが晴れるころには道士の姿はどこにもありませんでした。
「決して同門の道士以外には口を割らない」
その鉄の掟があったからこそ、今日まで道術の神秘は保たれてきたのです。
記録の中で道士は道術について無知な若い娘を術にかけました。
しかし呪いをかける相手も誰でもよいというものではありません。
呪術は諸刃の剣、ときとして術者自身の身も危険に晒すものでもあるのです。
道術にまつわる記録には未熟な者が手を出したとき、手痛いしっぺ返しを受けた「呪い返し」の話も存在します。
愛を奪い取ってでも手に入れたいとき、その隣に呪術を修めた者の姿があれば、より良き結果を得られることでしょう。